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高松高等裁判所 昭和30年(ネ)308号 判決 1956年10月02日

控訴人 石田政市

被控訴人 津島町大字山財

主文

原判決を次の通り変更する。

控訴人所有の愛媛県北宇和郡津島町大字山財字新立山戊五十六番地山林と被控訴人所有の同県同郡同町大字山財字大白戊一番地の五山林との境界は、別紙図面<省略>記載荒谷川北岸にある炭焼かまどの南方六米の地点を起点としこれより順次1乃至13の各点を結び更に14の点に至る線(各点間の方位角、斜距離は別紙記載の通り)であることを確定する。

訴訟費用は第一、二審共控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。愛媛県北宇和郡津島町大字山財字新立山戊五十六番地山林と同県同郡同町大字山財字大白戊一番地の五山林との境界は同大字の山林地帯を流れる荒谷川であることを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、本件両山林の境界は主文第二項掲記の線であると訂正陳述した外原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

理由

被控訴人は、先ず本案前の抗弁として、被控訴人津島町大字山財には区長が存するから、被控訴人に対する訴は区長を代表者とすべきであるに拘らず控訴人が清満村長(後に津島町長)を被控訴人の代表者として被控訴人に対し訴を提起したのは不適法であると主張するにつき考察する。しかし成立に争のない甲第一号証並に原審における被控訴人代表者藤堂満義の供述を綜合すれば、被控訴人津島町大字山財(元清満村大字山財)は愛媛県北宇和郡津島町大字山財字大白戊一番地の五山林十六町一反二歩を所有し、地方自治法にいわゆる財産区であることを認めることができ、財産区についてはその財産区の存する市町村の長が財産区の財産を管理し且つ外部に対しても当該財産区を代表するものと解すべきであるから(地方自治法第二百九十四条参照)、控訴人が清満村長(後に津島町長)を被控訴人の代表者として本訴を提起したのは適法であると謂わなければならない。尤も被控訴人大字山財に区長が存することが記録上窺えるけれども、右区長なるものは事実上大字山財の部落民を代表する者に過ぎないものであること前顕被控訴人代表者藤堂満義の供述に徴し明らかであり、法律上財産区の代表機関であるとは認められない。その他成立に争のない乙第四号証の一乃至三によるも叙上判断を左右するに足らず、被控訴人の前記主張は理由がない。

仍て本案につき審究するに、愛媛県北宇和郡津島町(旧清満村)大字山財字新立山戊五十六番地山林一町一反五歩(以下甲山林と称す)が控訴人の所有に属し、同県同郡同町大字山財字大白戊一番地の五山林十六町一反二歩(以下乙山林と称する)が被控訴人の所有に属すること並に右両山林が境を接していることは本件当事者間に争がない。

控訴人は、控訴人所有に係る甲山林と被控訴人所有に係る乙山林との境界は大字山財の山林地帯を流れる荒谷川であると主張し、被控訴人は、右甲乙両山林の境界は別紙図面記載荒谷川北岸にある炭焼かまどの南方六米の地点を起点とし、これより順次1乃至13の各点を結び更に14の点に至る線(以下被控訴人主張線と称する、各点間の方位角、斜距離は別紙記載の通り)であると主張するにつき審按する。右甲乙両山林の境界につき原審並に当審証人山中本蔵、同山中梅一、当審証人清家秀吉(但し第一回)、同水野繁春、同木村秀寿、同堀川利夫、同山口秀一はいずれも控訴人の主張に符合する証言をなし、控訴本人もまた原審(第一、二回)において控訴人の主張に副う供述をしているけれども、右各証言または供述は後掲各証拠と対比するときにわかに信を措き難く、また成立に争のない甲第三、第四及び第十一号証によつては控訴人主張の如く荒谷川が甲乙両山林の境界をなしていることを認定するに未だ十分でなく、その他控訴人の提出援用に係る全証拠を検討しても甲乙両山林の境界が荒谷川であることを認めることができない。却て成立に争のない甲第一号証、同第十号証、乙第三号証、公文書であるから真正に成立したものと認められる乙第七号証、原審並に当審証人梶原飛佐七郎、同堀田三之進、同堀川宇平(原審は第一、二回)、同兵頭平八、同山口松治、原審証人山口亀吉、同清家倉吉、同梶原伝三郎、同清家仙蔵、同清家要造、当審証人伊原官一、同堀川忠太郎、同山口源太郎の各証言並に原審及び当審における現地検証の結果(原審は第一、二、三回)を彼此綜合すれば、甲山林は明治三十七年十二月十四日訴外堀田米治外二十三名が柏田金三郎外一名より買受けこれを共有していたものであるところ、昭和十四年二月頃入札により控訴人及び訴外堀川忠太郎の両名がこれを買受けたが、右堀川がその持分を控訴人に譲渡して控訴人の単独所有となつたものであること(昭和十四年九月十一日前記堀田米治外二十三名より控訴人へ所有権移転登記)、他方乙山林は元清満村山財区の区有林約八百町歩の一部であり、大正十四年頃訴外梶原飛佐七郎が山財区の区長をしていた時代に右区有林約八百町歩を分割したものであるが、その際山財区の郷社熊野神社の維持管理費に充てるため乙山林を山財区が所有することになつたものであること、当時乙山林と隣地の甲山林との境界は被控訴人主張線より尚新立山寄りであつたが、当時の甲山林の共有者達(二十四名)の懇望により山財区の側で約二反歩位譲歩して双方立会の上被控訴人主張線を両山林の境界と定めたこと、(右境界線は上方に大きな岩がありその岩から尾根に沿い荒谷川に向つて下方に下り中腹より稍下にある岩のところから斜め東方に下つて荒谷川に至つている)、荒谷川と被控訴人主張線との間の地域即ち本件係争山林部分に檜の植林が存するところ右は昭和三、四年頃訴外兵頭平八が山財区の区長をしていた時代に、山財区の区民が総出でその植林をしたものであることを夫々肯認することができ、尚当審における鑑定人山本福馬の鑑定の結果により認められる甲乙両山林及び係争部分の山林の各実測面積(本件係争部分の実測面積は六町一反二畝十六歩であり、若しこの部分が甲山林に属するとすれば甲山林の実測面積は十五町六反四畝十六歩となり公簿面積よりはるかに大となるのに比し、乙山林の実測面積は十二町三反七畝十歩となつて公簿面積より小となる)の点をも考慮に加えると、本件甲乙両山林の境界は被控訴人主張線であることを肯定するに十分であると謂わなければならない。従つて本件両山林の境界は主文第二項掲記の如く確定することとし、右認定と一部分異る原判決はこれを変更することとし、民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 石丸友二郎 浮田茂男 橘盛行)

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